君をひたすら傷つけて
 思い出話に包まれ、穏やかな時間を過ごしていたけど義哉とのお別れの時間が近づいていた。家族が思い思いに義哉に向ける言葉を聞きながら、私は涙が零していた。私が思う以上に義哉は愛されていたのだと思う。紡がれる言葉の端々に、優しさと愛が満ちていた。暗くなりがちなお葬式も義哉を包んでの優しい式だったと思う。


 ゆったりとしたお葬式が終わり、私はご両親に挨拶をしてから式場を出たのだった。式場を出ると突き抜けるような青空が広がっている。その眩さに一瞬目を細めるほどだった。二日前はあんなに寒くて堪らなかったのに、今日は春を思わせるような日になった。


 式場に入るまでは空の青さに気を取られることはなかったけど、こうやって式を終えた後は空を見ることも出来るようになっていた。義哉が昇っていく空は青ければ青い方がいい。綺麗な義哉には綺麗な青が似合う。


「藤堂さん」


 名前を呼ばれて振り向くと、そこにはお兄さんの姿があって私の方に急いでいるように見えた。私は足を止めるとお兄さんの方に歩き出した。


「何か忘れ物でもしましたか?」

「そうではないですが、家まで送ろうかと思って」

「義哉は?」

「両親と一緒に行きました。私も行こうとは思いますが、その前に藤堂さんを家まで送ります」
< 160 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop