君をひたすら傷つけて
 私は義哉に恋をしている。それは変わらない。

 お兄ちゃんが待ち合わせの駅のカフェに来てくれたのは約束の二十分よりも早い、十五分を過ぎた頃だった。仕事から急いできたのが分かるお兄ちゃんを見ながら申し訳ない気持ちでいっぱいになった。お兄ちゃんは珍しく息を切らしていた。

「雅。待たせたね」

「ううん。今日は本当にごめんなさい。いきなり連絡して吃驚したでしょ」

「それはいいけど、アイツは?」

「駅まで送ってくれて飲み会の場所に戻って行ったよ。最初は吃驚したけど、そんなに悪い人でも無かったみたい。あの、鍵、ありがとう。」


 そう言いながら、私は自分のバッグから鍵を取り出すとお兄ちゃんに渡した。するとお兄ちゃんはそれを自分のスーツの上着のポケットに入れるとふわっと微笑みを浮かべた。

「そうか。でも、男に気を許してはいけないよ。どんなにいい人でも裏切られたら雅が傷付く。私はもう雅が傷付くのを見たくない」


 お兄ちゃんはコーヒーを飲みながら、そっと視線を窓の外に映す。窓のガラスに映ったお兄ちゃんはどこか憂いを帯びていて声を掛けるのを躊躇ってしまうほどだった。大人のお兄ちゃんは学生の私とは違って考えることがたくさんあるのだろう。雑踏の中私とお兄ちゃんの周りだけ音が消えたかのように静かだった。

「ありがとう。お兄ちゃんの仕事は?」

「今日はもう終わりだよ。雅は家に連絡したのか?」

「うん。もう大学生だから大丈夫」

 こんな優しい時間を過ごすのは続かないような気がしていた。いつかお兄ちゃんに本当に好きな人が出来た時に終わるこの関係をその時まで大事にしたいと思った

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