君をひたすら傷つけて
 日本を離れてフランスに語学留学をするなんて私の頭には一切なかった。

 義哉が亡くなってまだ一年しか経ってない。私はサークルに入ったりして、少しだけ前に進み始めたばかりだった。それなのにフランス留学なんて考えもしなかった。

 なぜ決まっているはずの話しが私に来るのだろうかと思った。フランスの語学留学に決まったのは教授の研究室でも一、二位を争うほどの才媛で勉強が出来るだけではなく、比較的綺麗なフランス語を話すことが出来る人だった。誰もが納得の人選で、そこに私の名前が挙がることの意味が分からなかった。

「既に決まっていると聞いてますが」

「急に一身上の都合で辞退ということになり、欠員が出た。藤堂さん。急ではあるけど頑張って行ってみないか?入学時に留学希望だったよね」

「それはそうですが…」

 
 すぐに答えの出ることではない。私はまだ義哉を失ってからのリハビリをしている最中で一歩踏み出したばかりだった。そんな私がフランス留学なんて一歩どころか飛翔レベルだと思う。一番最初に『無理』と思った。でも、断ろうと口を開きかけた瞬間、教授がニッコリと笑った。


「いい話だと思うよ。今回は既に辞退した子がある程度の準備を終わらせているので、向こうでの住むところも準備されている。学校もかなりいいところだから、これからのことを考えると私個人的にはとてもいい話だと思う。でも、費用も掛かるしご両親と相談もしてから一週間くらいで返事を貰えると助かる。秋の入学式に間に合わせたいからね」
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