君をひたすら傷つけて
 午前最後の講義が終わり、今日はどこでランチをしようかと思っている時だった。講義が終わり、教室を出ようとする私を引きとめたのは教授の助手を務めている人だった。

「この後、教授が大事な話があると言ってますので教授室まで来れますか?」

「はい。大丈夫です」

 私が教授に呼ばれるのは初めてだった。講義の態度も悪くないと思うし、レポートの提出も終わっているし、この講義の単位は取れるだろうと思っている。だから、何の用事があって呼ばれたのか見当もつかなかった。助手の人に連れられて教授室に入ると、広い机のたくさんの書物を並べた教授が私の方を見つめていた。

「教授。藤堂さんをお連れしました」

「ありがとう。藤堂さんに資料を渡してくれるか?」

「はい」

 それだけ言うと、助手の人は教授の机の横の棚から紙の封筒を取り出して私に差出した。封筒には分厚い冊子が何冊か入っていた。

「フランスへの語学留学を考えてみないか?」

「語学留学ですか?」

「一人欠員が出てね」

 
 私の通う大学ではグローバル化に対応出来る人材の育成のために二年になると一年間の留学を世界各国に行うことが出来るようになっていた。グローバルな人材を育成するためには色々な世界を見るのが一番。それは私の学部も例外ではなく何人かが選ばれている。でも、私は応募しなかった。
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