君をひたすら傷つけて
 マンションを出たところにある街路樹は樹齢もかなり経っている桜だった。立派な幹は枝を張り、その先には春の力を誇示するかのように花を咲かせている。今年の桜は例年よりもかなり早くもう満開が近い。


 駅までの道はこの時期は淡い桃色の花びらが空を綺麗に染める。青い空に映える桃色の花びらは綺麗だと思い、忙しい生活をしている私でも毎年足を止めて眺めてしまう。


 毎年同じように桜の花が咲く。同じではないはずなのに同じに見える。なんでこんなに毎年綺麗な花を咲かせるのだろうか?淡い白に少しだけの桃色を足したかのような花びらは今日も風に揺らされ枝から離れ、風にふわりと舞う。はらはらとゆっくりと風に煽られて踊る花びらの行く先を見つめてしまう。



 花びらも一旦枝を離れると春の優しい風に舞うように空を舞うけど、いつかは落ちてしまう。落ちてしまえば後は土に戻るだけなのに、この散る一瞬だけは最後の美しさを魅せつけるように舞う。そんな綺麗で淡い桃色の花弁を見ながら、小さな溜め息を零す。儚いくらいに美しく感じるのは私の心が優しさに触れることが多いからかもしれない。


 一度は死んでしまった心も時間という優しさがゆっくりと癒してくれた。見上げる澄んだ空の青さに胸に込み上げるものは忘れたくても忘れられない思い出。


 あれから九年の月日が流れても私の心はあの頃のまま、恋をし続ける。


 瞼の裏に浮かぶ笑顔が愛しい。


< 2 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop