君をひたすら傷つけて
「お兄ちゃんは前向きだね」

「前向きというか、義哉に恥ずかしくないように頑張って生きたいと思っているだけだよ。義哉にとって誇れる兄でありたいんだ」

 私のフランス留学が私の心の中にストンと落ちてきた瞬間だった。留学期間は一年でそれが終わると大学に復学することが出来ることになっている。でも、その間は義哉に会いに行くことが出来ないと思うと寂しい。会いに行くのは月命日と決めているけど、本当は時間があれば毎日でも会いたいと思っているくらいだ。

「お兄ちゃんは誇れるお兄ちゃんだよ。義哉だけでなく私にとっても」

「私は雅が居てくれて救われるな」

 そう言いながらお兄ちゃんは目の前のグラスに口を付ける。私が苦しくてもがきながらも前に歩くようにお兄ちゃんは実の弟を失ったのだからもっと苦しく前に歩いているのかもしれない。

「頑張って来ようかな」

「雅が選ぶことを尊重するよ。さ、その話はこの辺にして、この頃の雅の大学生活の話を聞きたい」

「そんなに何も面白いことはないよ」

「それでも雅の話を聞きたいんだ」

 私の話を聞いてもそんなに面白くはないと思うけど、私の中でフランスへの語学留学が現実味を帯びてきた。お兄ちゃんと話しているうちに心が決まってきた気がした。フランス留学はもしかしたら私の止まっていた時をゆっくりと動かすかもしれない。

「お兄ちゃん」

「ん?」

「頑張ってみようかな」


 店を出て二人で並んで歩いている時にふと零れた言葉に少し前を歩くお兄ちゃんは振り向きもせずに言った。

「雅を応援しているよ」

 なんかそれだけでいいと思った。
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