君をひたすら傷つけて
 私の席まで女の子が溢れている。今から三学期の始業式のために講堂に移動しないといけないというのにこの人だかりはどうしたらいいのだろう。新しくクラスメートになった男の子。それも綺麗な男の子と仲良くなりたいと思う女の子の気持ちもわからないではないけど、それにしても今は移動するのが先と思う。


「どこから来たの?」

「どうしてこの時期に?」

「どこに住んでいるの?」


 色々浴びせられる質問に高取くんは嫌な顔をせずに丁寧に答えていくのが聞こえる。優しく親切な物腰に女の子がヒートアップしていく。キャーキャーと煩いけど、それでもニコニコと対応するなんてオトナだなって思う。でも、その中の一人の女の子の言葉に一瞬、周りがシーンとなる。


「彼女はいるの?」

「いないよ。受験が終わるまでは考えられないかな」


 一人のクラスメートの女の子の投げた質問に、彼は一瞬だけ困ったような顔をして、優しく答えた。


 プライベートの繊細なことだから答える必要は無いと思ったけど彼は素直に答えている。高取くんの答えは至極真っ当なもので今の時期に恋愛に夢中になるなんて受験を控えた身としては考えられないだろう。でも、この模範解答は女の子たちの興味を十分に満たした。


「その時になったら立候補してもいい?」


 さっき、先生が言った事を覚えてないのだろうか?高取くんは二か月後に居なくなる。受験の前に居なくなる…。
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