君をひたすら傷つけて
 高取くんは私の横にくると軽く会釈してから席に座る。持っているバッグもこの学校の指定のものではなく、どこか知らない校章が印刷してある。でも、三年間使ったというほどの汚れもなく、綺麗だった。さすがに新入生の持ち物とは言わないけど、それにしても私のバッグとの違いは凄かった。

「よろしくおねがいします」

「こちらこそ」


 そんな簡単な挨拶が高取くんとの最初の会話だった。もっと高い声を想像したのに、綺麗な外見とは裏腹に落ち着いた大人っぽい声が囁かれる。私の横に座るとバッグの中から筆箱を取り出し、小さ目のノートを取り出しサラサラと書きだした。黒板に書かれることは授業で大事な板書きとかではなく、単なるスケジュールしか書いてないのに高取くんは真剣に写している。


 今からのスケジュールは毎年と変わりなかった。公道での三学期の始業式をして、クラスに戻ってから役員決め。でも、この役員と言うのは委員長だけは中々決まらないと思う。卒業式の絡みもあるので時間が掛かるのは間違いない。


 誰か立候補してくれたら何も問題ないけど…。今日はそうやって一日が終わるだろう。


「では、講堂に移動してください」


 先生が教室を出ていくと、二学期のクラス委員が廊下に出て講堂に向かうようにと声を出す。その声でクラスの殆どが廊下に出たのだけど、一分の女の子は一気にドアと反対側に向かって進み、高取くんの席を取り囲んだ。クラスの女の子の殆どがここに集まっているのではないかと思うくらいの人だかりで、私は立つことすら出来なかった。

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