君をひたすら傷つけて
 お父さんが運転する車で空港まで行くと、搭乗手続きまではお母さんが付き添ってくれた。お父さんは空港の駐車場で別れて、会社に行ったけど、お母さんは仕事があるのに搭乗口まで一緒に来てくれた。チェックインを終わらせたので搭乗まではまだ一時間以上も時間がある。

「お母さん。もう、仕事の時間でしょ。早く行かないと」

 お母さんはチラッと腕時計を見てニッコリと笑う。

「そうだけど、雅が飛行機に乗るまではここにいるよ。大事な娘がフランス留学するのに見送らないというのもどうかと思うけど」

「ここまで見送りにきてくれただけで十分だよ。チェックインも終わったし、後は搭乗前に手荷物検査くらいだよ。もう、子どもではないんだから大丈夫。フランスに着いたら連絡するから」

「でも」

「大丈夫だから」

「そう。雅がそこまで言うならお母さんは仕事に行ってくるね。フランスに着いたらすぐに連絡してね。たまには電話とかしてきてね。身体に気を付けてね。それといつでも帰ってきていいから」

「うん。じゃ、お母さんも元気でね」

 お母さんはニッコリ笑って、私を抱きしめてから空港から繋がる地下鉄への通路に向かって歩き出した。ここからお母さんの職場までかなりの距離がある。今から行ってもかなりの遅刻になると思うけど、それでも搭乗まで待たせたらもっとお母さんが大変になる。

 それにもう後は私がフランスに行く飛行機に乗るだけだし、何も怖くない。
< 213 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop