君をひたすら傷つけて
 しばらくすると大丈夫だと自分で言ったのに、お母さんの姿が見えなくなるだけで不安になってしまった。一人で空港のロビーに座っていると色々なことを考えてしまう。怖くないと言ったら嘘になるけど、それでも留学したいというのは私の望みだった。受験期に大学を決めた時からの志望だった。

 真っ直ぐ前を見つめると空港はたくさんの人が溢れている。その流れに乗り、フランス行きの飛行機に乗ればいいだけと思うけど足が竦んでしまった。こんなところまで来て、足が竦むとは思いもしなかった。フランス行きの飛行機の搭乗は始まっていて私も行かないといけない時間になっている。

「雅!!」

 パスポートと航空券を握り、やっとの思いで立ち上がろうとしていた私は自分の名前を呼ばれたような気がして雑踏の中を見つめた。でも、そこには誰も居なくて空耳かと思った。

 搭乗口に向かう私の腕がギュッと握られ、後ろに引かれたのはその後すぐのことだった。私の腕を掴むのは…額に汗を流し、いつも涼しげな表情を崩さないお兄ちゃんは息を切らせながら私の前にいる。


「どうして?仕事は?」

「いや。大事なことを言い忘れたと思って。」

「何?」

「フランスで困ったことがあったら、すぐに連絡してくるんだ。コレクトコールでいいからな。必ずだ。絶対に私が助けるから。フランスでもどこでも行くから」
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