君をひたすら傷つけて
 女の子が行ってしまうと私はやっと立ち上がれた。クラスの子と一緒に講堂に入り始業式に参加した方がいいと思った。スッと立ち上がると急に横から涼やかな声が聞こえたのだった。


「ごめんね。俺のせいでずっと立てなかったよね」


 見上げるとそこには綺麗な笑顔があって、一瞬ドキッとした。高校生の男の子とは思えないくらいに無邪気な笑顔に心が揺れた。屈託のない笑顔は綺麗だった。周りでキャーキャー言っていた女の子の気持ちは分かるくらいに眩い、そして清廉な微笑みに見とれそうになった。


「この時期の転校生が珍しいだけだから、しばらくしたら落ち着くと思うけど、それまで迷惑を掛けそうだね。藤堂さんでよかったよね。下の名前を教えて欲しいけどいい?」


「雅。…藤堂雅です。こちらこそよろしくお願いします。あの、それと騒いでいたのはウチのクラスの女の子だし、高取くんが悪いわけではないから」


「雅ちゃんかぁ。いい名前だね。綺麗な名前だ。そして、優しいね」


 自分の名前が綺麗と思ったことはないけど、彼の優しげな声で紡がれる自分の名前が特別に思える。微笑む高取くんの顔に私の心が吸い寄せられるのを感じていた。高校生の男の子なんて自分の事ばかりで精一杯で頭の中は想像もしたくないことで埋め尽くされていると思っていた。


 そんなのは高取くんからは感じられなかった。

 
 無垢。


 その言葉が彼にはよく似合うと本当に思った。

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