君をひたすら傷つけて
 私はさっきの先生の話を忘れてはなかった。高取くんは二か月しかここには居ない人。一緒に卒業さえもできないと決まっている。それなのに私は高取くんの無垢の中にある大人びた表情から目を離すことが出来ない。深い瞳の奥にどこか凛としたものがあり、その光が私を見つめている。


「別に普通の名前だと思うけど、褒めてくれたのは嬉しい。ありがとう」


「そう?僕は本当に綺麗な名前だと思っただけ。嘘はついてないよ」


 面と向かって言われるとドキドキしてしまう。高取くんと話していると調子が狂うとしか言いようがなくて、少しの誤魔化しも出来ないような気になるのはなんでだろう。これ以上話したくなかった。


「職員室に行くって言っていたけど場所わかるの?」


「うん。多分。でも、職員室から講堂までは分からないから、藤堂さんが案内してくれると助かる」


 来たばかりの転校生にうちの学校の校舎はわかるわけない。職員室と講堂は全くの反対方向で行くと遅れてしまうのは分かり切っている。さっきは先生に聞くと言っていたけど、先生も忙しいし、もしかしたら先生たちもみんな講堂に言っているような気もする。



「いいけど。あの子たちでなくていいの?かなり可愛いから一緒に居たら嬉しいでしょ」


「確かに可愛いけど。あの子たちの勢いに圧倒されそう。それに藤堂さんも可愛いと思う」


 まただ。


 この真っ直ぐな視線が私を見つめていて、私も何も言えなくなる。誤魔化すことも出来ない。

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