君をひたすら傷つけて
 私はまだ残っているスタッフに挨拶をしてからリズのいう通りにタクシーでアパルトマンに戻ることにした。用意されたタクシーの後部座席に座ると身体が思ったよりも沈む。深い水の底に沈んでいくような感覚に驚きながら、こんなにも身体が疲れていたのだと実感した。気を張っていたと思う。でも、私でこんなに疲れているならリズはもっと疲れているのだろう。そんなことを考えた。

 今もまだ、リズは仕事の中にある。後片付けだけではなくクライアントとの打ち合わせの後にパーティもあると言っていた。私は帰れるけどリズはまだ帰れない。そのパーティで今後の仕事が変わったくる。

 リズの仕事は凄いと思う反面羨ましくもある。私は前を向いて歩き出したばかりなのに、リズは自分の生きる道をしっかりと確実に歩いている。今日はリズの本気の仕事ぶりを肌で感じた。仕事が遊びじゃないのは分かっている。でも、どこかで私には甘さがあった。

 リズの仕事がそれを簡単に払拭した。

 私は語学留学という形でここに来ているが、今の私は何の仕事をしたいとか頭に浮かばない。この留学から日本に帰った後に就職活動をしてどこかの企業に就職するのだろう。出来れば雅楽留学もしたのだからフランス語が役に立つ部署に配属されればとは思う。

 先は全く見えないけど日本に帰る前に自分が本当にしたいことを探したい。前向きなリズとまりえと一緒にいると自分が前を向いて歩きたいと思う。

 しばらくのタクシーに揺られてアパルトマンに着くと部屋の電気は消えてなかった。お金を払ってから部屋に入るとまりえでニッコリと笑うと優しく抱き留めてくれたのだった。ふわっとした花の香りが私を包んだ。
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