君をひたすら傷つけて
 リズの厳しい言葉に私は息を飲んだ。自分でも上手に動けてないのは分かっていた。いままでは許されたけどこれからは許されない。これが私の選んだ道だった。妥協なんかしないリズは現場で上手く動けない私に厳しい言葉を投げた。『邪魔』というリズの言葉通り、私は邪魔でお荷物の存在だった。

 簡単な雑用でさえも思い通りにならないとは思わなかった。リズの言葉の通り、私は他のスタイリストに自分のいた場所を譲り、壁際の邪魔にならないところに移動した。そして慌ただしく動く戦場を見つめていた。真っ直ぐに見詰めるその場所は輝いて見える。

 そして、必要以上に焦っていた自分に気付いた。

「どう?離れてみたら色々見えるでしょ。特に上に登っていこうとする人間は自分の足がどこにあるかを知らないといけない。落ち着いて見てみるというのも悪くないだろ」

 悔しさに唇を噛んでいた私に急に言葉が降り注いだ。見上げるとそこには眩さがあった。黒のシルクのシャツは淡いライトで艶と質感を醸し出し、ボタンを外した胸元からは滑らかな肌を見せている男の人が立っていた。私はその人を知っていた。

 この世界に足を踏み込んだ人間で彼を知らない人は居ないだろう。

 アルベール・シュヴァリエ。

 パリにデビューと同時に有名雑誌の表紙を飾った。その衝撃的なデビューから一年で瞬く間にスターダムにのし上がり、今回のコレクションでは最後のマリエの相手役に抜擢されているが、どうしても女性のモデルが霞むというのがもっぱらの噂だった。透けるような白い肌に思慮深いグレーの瞳。プラチナブロンドの彼は昔読んだ絵本に出て来そうな王子様そのものだった。
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