君をひたすら傷つけて
 でも、私にリズはその鉄壁を越えろという。家、打ち砕けとでも言っているようだった。日本人の、ましてやまだフランス語も上手に話すことも出来ない。日常会話くらいならどうにかなるけど、現場で細やかな表現は分からない。それでもリズは前に進めと言う。

「リズ。私にドレスを貸してくれる?何も持ってないの」

「もちろんよ。私が腕によりを掛けて可愛くしてあげるから期待していいわ。今日のパーティにはこの業界の重鎮が集まっている。今日は仕事に繋がることは無いかもしれないけど、先には分からないでしょ」

「リズ」

「私は雅の味方よ」

 リズは私の身体を抱き寄せると耳元で囁く。低く甘いハスキーボイスはやはり姿は女でも声は男の人のもので、ドキドキしてしまうくらいにセクシーで色気がある。鼻腔を擽るムスクの香りも色香を増していた。

 一度アパルトマンに戻って準備をすることになった。リズはその技術の粋を私に注ぎ込み誰の前でも恥ずかしくないようにしてくれた。フランス人に比べたら地味な顔立ちだけど、地味な中にも自分でする化粧とは全く違っていてモデルのような華やかさはないけど、パーティと言う場でスタイリストとして恥ずかしくないものだった。

 リズが選んでくれたドレスは身体にぴったりと添うような黒のロングドレスで前から見ると太ももから大胆なスリットが入っている。合わせてくれたパンプスは銀で、それはさすがにサイズがあるので、リズの会社の備品を借りることにした。

 黒のドレスに銀のパンプス。私には背伸びしすぎのようにも見えたけど、これが一番だった。
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