君をひたすら傷つけて
 フランスの男の人は情熱的な人が多く、友達のラインを越え深い付き合いをしたがる人も多い。でも、アルベールにはそれがなかった。心で思っているのかもしれないけど剥き出しの感情は見せなかった。食事をして、雰囲気のいいバーで飲んだりもするけど、そこでも友達のラインを侵すことはない。それが私を安心させてくれる。

 アルベールは私とある一定の距離を取り続けていた。友達と恋人の境目はキッチリと彼の中で決まっているようで、私に無理矢理近づこうとはしない。口では『雅のことが好きだよ』と甘い言葉を零したりもする。本気なのか冗談なのか分からなくなるほど綺麗な微笑みと共にくれる。

 私はアルベールに好意は持っている。でも、それは恋じゃないというのも分かっていた。

 義哉に感じたあの胸が苦しくてどうしようもないくらいに溢れる好きという気持ちを私はアルベールに感じることが出来なかった。アルベールのことを本気で好きになれば私は幸せになれるのではないかと思う。それでも、自分の心に嘘は吐けない。嘘や誤魔化しでどうにかなるものではない。

 不器用すぎる私の恋はまだ継続中。これは一生変わらない。

「今度のコレクションは気合い入れないと」

 そう言って笑うアルベールは出会った頃よりも数段有名なモデルになっていた。老舗ブランドの専属モデルになってからは雑誌にコマーシャルにと仕事の幅が広がっていった。テレビでもアルベールの綺麗な顔が流れない日はないくらいに有名になっていた。それでもアルベールは変わらなかった。


 私と一緒に居る時にマスコミに囲まれることもなかったわけではないけど、アルベールは冗談っぽく躱していく。

『君らのせいで俺がフラれたら責任とってくれるの?損害賠償問題だよ』

 そんなアルベールのことが好きだった。
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