君をひたすら傷つけて
 私が『アルベール』とファーストネームでサラッと呼ぶようになるのに時間は掛からなかった。それは私の中でアルベールという存在が大きくなっているからだった。しなやかな猫のように私の心の中にスルッと入ってきた。

 語学学校の時やファッションの学校のクラスメートと会うこともあるけど、アルベールと一緒に過ごすことが増えてきた。アルベールの仕事の休みの時は毎回のように私を誘ってくる。メールは嫌いなのか、殆どが直接電話だった。断っても断っても気にしないのか誘いは減ることはない。

 それは食事だったり、オペラだったりと色々。最初は躊躇したけど、私も慣れたのか用事が無い時は一緒に出掛けることも多くなっていく。その度に私はお腹が捩れるほど笑い、余りの可笑しさに涙を零さないといけないほどだった。

 クールビューティな容姿とは裏腹に底抜けに明るいアルベールと一緒にいると私は大きな声を上げながら笑っていた。一緒にいて楽しい。だから一緒に居る。気取らない性格で明るいアルベールと一緒に居ると自分の悩みなんか小さなことのように思える。仕事で失敗しても魔法でも使ったかのように私を浮上させる。

 モデルとアシスタントは同じような世界で仕事をしている。だから、私の悩みも分かってくれ、悩みに親身になって応え、自分の中で一番いい答えを出そうとしてくれる。

 私にとって大事な相談相手でもある。

 それに一緒に出掛けようと思う理由の一つはアルベールは友達のラインを守る人だったから。
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