君をひたすら傷つけて
 教室に帰ったらこのカイロは返そうと思うけどそれまではこの温もりを少しだけ借りることにした。カイロのお蔭で冷たかった指先がじんわりと温かくなってくる。


「ありがとう。温かい」


 そんな私の小さな声に高取くんは頷き、視線は話している校長先生に向けている。誰もが退屈だと思う始業式なのに真面目に先生の話を聞いていて、真剣な横顔をついチラチラと見てしまった。そんな私の視線に気づいた高取くんは私の方を見て小首をかしげるけど、私は何もないと言う風に首を振る。


 高取くんを見ていると心が温かくなる気がした。


 始業式は時間通りに終わり、教室に戻る時に前の方に座っていたさやかはいつの間にか私の横にいて、欠伸をかみ殺すのに苦労したといいながら身体をグッと上に伸ばす。そんなさやかの話に耳を傾けながらも視線は目の前を歩いている高取くんを捕えてしまう。


 教室では女の子の勢いに押されていたクラスの男の子が高取くんの周りに居て、楽しそうに笑いながら廊下を歩いている。楽しそうに笑う高取くんを見ながら、さっき職員室で会ったお兄さんを思い出していた。真面目で弟を溺愛していると思われる兄がこの姿を見たらあんなに心配はせずに安心するだろうと思った。


「ホームルームが終わって委員決めが終わったら今日は下校だよね。家に帰っても勉強しないといけないのかな」


「三年ってそんなもんじゃない?」


「受験ってこんなに大変とは思わなかった。今になって何から始めていいかさえ分からなくなる」


 そんな話をしながら戻った教室は先生が来てないというのもあって騒がしかった。
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