君をひたすら傷つけて
 キュッと抱き寄せられ、夜の空気を肌に感じながらもアルベールの温もりを感じていた。友達とどう違うのかどう変われるのか分からないけど少し強く抱き寄せられたのは昨日とは違う。

「雅。今までと何も変わらないでいいから。今の雅でいいよ。雅を傷つけたくもないし、するつもりもない。それだけは心配しないでいいよ」

 小さい子どもに言い聞かせるようなアルベールの優しさに頷きながら私は心の奥が少しだけ温かくなった。

「また明日」

「ああ」

 私はアパルトマンの中に入ると自分の部屋に向かって階段を昇る。薄暗いアパルトマンの中だけど、私とリズの住む部屋のドアからは細く光の筋が見えている。鍵を開け、中に入ると、ちょうどシャワーを浴び終わったリズがリビングに入ってくるところだった。真っ白なバスローブに金色の豪奢な髪が揺れている。リズは私の顔を見てニッコリと微笑んだ。

「アルベールに好きって言われた」

 私がそういうと、リズは驚いた顔一つ見せずに穏やかな微笑みを浮かべ、ソファに座ると肩に掛けていたタオルで優雅に自分の髪をゆっくりと押さえ始めた。

「アルベールは優しい男だから大事にして貰えるわ」

「でも、思いには応えられないの。それでも傍にいるだけでいいって」

「雅はアルベールのことを人間として好きでしょ。だから、それでいいのよ」

 リズの言うとおり。私はアルベールの事を人間としては好きだった。優しく思いやりがあり、真剣に仕事をする姿勢は尊敬もしている。素敵な人だからこそ私は躊躇した。

「雅は雅でいいの」

 リズの言葉が優しく私に滲みた。
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