君をひたすら傷つけて

春の優しさを

「雅。今日の夕食は仕事で遅くなりそうだからいらない。今日は新しいドラマの件で打ち合わせが入っている。この頃、海がいい仕事をするようになってくれたからマネージャーとしての仕事も遣り甲斐を感じるよ。ドラマの次は主演映画も決まっていて、秋の映画祭に出品させたいと思っている」


「ドラマは前に聞いたけど、主演映画って凄い。仕事が忙しくなるね」


「ああ、でも、それが楽しい」


 そういいながらご機嫌な表情を浮かべ、濃紺のスーツを着込む。ネクタイは割とキッチリ目に締めるのが好みの彼は私の同居人でかけがえのない人で、外では全く隙を見せない人なのに、私の前では自然体で言葉を零す。さっきからの彼の言葉は企業秘密も含まれている。


 私に絶対的な信頼を置いているから話しているのだろうけど、たまに、雑誌よりも早く知るその事柄は驚くことも多い。


 高取慎哉(タカトリシンヤ)31歳。

 
 彼は私が今までの人生で最高で優しい恋をした人のお兄さんだった。色々な事情があり、今は一緒に暮らしている。彼のマンションの一室を格安で借りて生活する私にとっては大家さんでもある。有名一流大学を優秀な成績で卒業し、日本で一番大きいと言われる芸能事務所に入り、今は人気絶頂の若手実力派俳優と云われる篠崎海のマネージャーをしてる。


 そして私は篠崎海のスタイリストをしていた。


 藤堂雅(トウドウミヤビ)26歳。


 これが私…。

 
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