君をひたすら傷つけて
「このリビングはまりえの影響だと思うの。まりえが日本に帰ってもそのままなの。私もリズも変えるつもりもないの」

 まりえはこのリビングに可愛らしいものをたくさん置いてくれていた。小さな花瓶にはいつも小さな花が活けられてある。リズが撮影の帰りに持ってくることが多いので、花瓶が空になることはない。まりえが居たら時間が止まったとしか思えないくらいに何も変わってない。

「まりえさんは雅にとってもリズにとっても大事な人だったんだ」

「本当に大事なの。今でも、たまに電話とかはしているの。でも、時差があるからそんなに出来ないけど」

「まりえさんも雅のことを大事に思っていると思うよ。雅を見ていれば分かる。彼女が帰った後、かなり寂しそうだったから心配した。でも、彼女が帰国したから雅との時間が増えたんだよな。俺にとってはキューピットだね」

 まりえが帰国して一人で食事をするよりは一緒にとアルベールが誘ってくれたのがこの関係の始まりだった。そう考えるとまりえはアルベールの言うとおりキューピットなのかもしれない。

「アルベールが居てくれてよかったと思う。まりえは私の中に深く入り込んでいたから、帰国後は本当に寂しかった」

「少しでも代わりになれたならそれでいいよ」

 準備が終わって出たのはそれからしばらくしてからだった。アルベールは私が手に持っているバッグを手に取るとニッコリと笑った。そして、バッグを持っていた手をそっと手で包みキュッと握りしめた。

「行こうか?」

「うん」
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