君をひたすら傷つけて
 ドキドキしながら私は一口食べて、まりえの味を感じ、ちらっとアルベールの方を見るとニッコリと微笑んでいた。その表情に少し安心した。

「美味しい。なんて表現していいか分からないけど、優しい味がする」

 シーフードドリアはしっかりと魚介類の味は出しホワイトソースに深みを増していて、パセリをたくさん刻んで入れたピラフと一緒に食べると本当に美味しい。私が大好きだからこそアルベールのために作ったのだった。

「よかった。まりえのレシピは美味しいの」

「確かにまりえさんのレシピも美味しいと思うけど、それ以上に雅が俺のために作ってくれたというのが嬉しい」

 誕生日のプレゼントだから少しでも美味しいものを食べて貰いたいと思って作ったし、喜んで欲しいとも思った。

「アルベールが喜んでくれたらよかった」

「嬉しい。雅が思う十倍は喜んでいるよ。本当にありがとう」

 誕生日のディナーなのに、二人で一緒にいると仕事の話を中心に会話で華やいで行く。そして、食事が終わる頃には次第に普段の自分に戻っていた。二人で二本目のワインを空けて、身体は少しだけ浮遊感に包まれている。それでも、このままではいけないと、アルベールと一緒にお皿を洗って片付けまで終わってしまうと違った意味で緊張してきた。

 このままここにずっと居てもいいかと、どのようにしてアルベールに伝えたらいいのだろう。リズは帰って来るなと言っているけど、自分から言うのもはしたない。彼は何を今、思っているのだろう。時計を見る私に気付いてしまったアルベールは私の方を向き、小さな溜め息を零した。
< 433 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop