君をひたすら傷つけて
 そこまでいうと、アルベールは少し困った顔をして、すぐにいつもの優しい微笑みを私に向け、ポンポンと頭を撫でてくれたのだった。それ以上何も言わなくても、リズの性格と、私の困った様子を見れば、イタズラの内容も容易に想像ついたのかもしれない。

「リズには困ったものだな。雅。髪、まだ濡れてる。こっちに座って」

 アルベールに言われるままにソファに座ると、アルベールがバスルームからドライヤーを持ってきた。ブカブカのパジャマを着て、濡れた髪のまま、化粧もしてない私はいつもよりも子供っぽく見える。元々、日本人は幼く見えるというけど私も例外ではない。

「自分でする」

「俺にさせて。きちんと乾かさないと風邪を引く」

 アルベールの繊細な手の動きに合わせて、ドライヤーの熱風が髪に掛かる。痛まないように少し遠目から丁寧に乾かしてくれていた。

「いつもこんな風にするの?」

「自分の髪は適当。女の子にこんな風にするのは初めて。熱かったら言って」

 アルベールの顔も見えないし、私の顔も見えない。でも、自分の耳が熱いのは分かる。勿論、ドライヤーの熱ではない。

「これくらいでいいかな。雅、俺もシャワー浴びてくる。あの右のドアがゲストルームだから、先に寝てて」

「え?」

「俺も男だし、一緒に寝室で寝るほど強靭な精神力は持ってない。さっきまでは大丈夫かと思っていたけど、雅がシャワーを浴びているので正直、自信が無くなった。ゲストルームと言っても、さっき、シーツとかは換えておいたから気持ちよく寝れると思うよ。じゃあ、おやすみ。明日はどこかにゆっくり出かけよう」
< 438 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop