君をひたすら傷つけて
 慎重に運転をしているのか、車の性能がいいのかわからないけど殆ど揺れないから乗り心地はとにかくいい。これで運転席と助手席にお兄さんと高取くんが居なかったら私は後部座席で心地よい揺れで寝ることが出来ただろう。でも、どこか身体の緊張が解けない私は借りてきた猫のように大人しく座席に座っていた。


「今日はどうだった?友達は出来たか?」


「楽しかったよ。始業式が終わって少し、クラスの人とも話したよ。でも、友達と言えるのは藤堂さんだけかな。今日は一緒に学校の中を案内して貰ったんだ。藤堂さんの説明は分かりやすかったから明日からは自分で動けると思う。迷子にはならないよ」


 友達といえるのは藤堂さんだけ…。


 高取くんの言葉は嬉しかった。綺麗で優しい高取くんと友達になりたいと思うのは私だけではない。でも、一緒に過ごした少しの時間が私を高取くんの友達にしてくれた。


「それは良かった。でも、迷子になってもその辺りに居る人に聞けばいいだろ」


「三学期のこの時期だよ。みんなは受験を控えているから、いきなり来たばかりの転校生に時間を割くことは出来ないと思う。だから、今日は頑張って学校の中を覚えたんだ」


 車内ではお兄さんが今日の学校の様子を事細かに聞いている。それに素直に答える高取くんを見ながら、高校生になって社会人のお兄さんに聞かれたことを素直に報告するのも珍しいと思った。その二人のやり取りが楽しそうで聞いているだけで心が温かくなる。そんな二人の会話を聞きながら、学校から最寄りの駅に着いたのだった。
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