君をひたすら傷つけて
「ごめんなさい」
 
 私は自分の身体を起こそうとするとアルベールは私の身体をギュッと抱きよせた。これ以上ないくらいにアルベールと私との距離は近づいていた。吐息が触れるほど距離で、どちらかが少しでも動けば唇が触れてしまいそうな距離で私は固まってしまった。目の前にあるアルベールの表情は真剣なのに、どこか男の色香を漂わせる。

 男の人に綺麗だというのもおかしい。でも、綺麗だと思った。

 アルベールの気持ちは分かっているし、私は彼を受け入れるつもりでもあった。でも、このタイミングで来るとは思ってなかったので焦っている私がいる。私は目を閉じた方がいいのかもしれないと思ったけど、目蓋が上手く閉じられなくて、アルベールの優しい瞳に吸い込まれそうになる。

「雅。寒くない?」

「う……うん」

 どのくらい時間が過ぎたのだろうか。一瞬とは言えないくらいに時間が長く、それでも私はアルベールの腕の中、身体を固くしたままだった。包まれていた腕の力が緩むと、私は自分の身体を少し起こした。サラリと私の膝に挟まれていた毛布が落ちる。それを引き上げようとする私の手をアルベールは取った。

「雅が欲しい。俺を受け入れて欲しい」

 アルベールの甘く囁く言葉に心の底が熱くなる。私はアルベールの気持ちの応えるつもりでここにいる。でも、私には恋愛の経験があまりにもなさ過ぎて、こういう時にどうしていいのかわからなかった。

 私は…。この言葉しか思いつかなかった。

「教えて」

 消え入りそうな私の声はアルベールの耳に届いたのだろうか?アルベールはもう一度私の身体を抱き寄せ、大きく息を吐く。そして、私の身体がふわっと浮いたので自然に自分の腕をアルベールの首に回した。

「寝室に行くね」

 アルベールは綺麗な微笑みと一緒に優しいキスをくれたのだった。
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