君をひたすら傷つけて
第六章

愛の行方

 ゆっくりと歩くアルベールの腕に抱かれ、私は自分の身が小さくなるのを感じた。首に回した腕は身体を引き寄せる。リビングの明かりは落とされ、寝室へは間接照明や足元灯の光だけが先を照らす。

 アルベールを好きという気持ちはある。その思いだけで今ここにいる

 そんなに軽くないはずの身体はアルベールの腕に抱かれ揺れる。揺れるのは身体か心か。考えてはいけないと自分に言い聞かせた。この状況を楽しめるほどの余裕は私にはなくて、身体は緊張の余り身動き一つ出来なかった。

 自分に聞く。

 心臓が煩いのは何で?

「雅。好きだよ。誰よりも」

「私も好き」

 何度目かのキスの合間に甘い言葉を耳元で囁かれると『教えて』と言ったのは私なのに自分の大胆すぎる言葉に焦ってしまう。

 私の一番深い部分に居るのは義哉。でも、心と身体は別で深いところに私はアルベールを受け入れようとしている。それがいいことなのか分からないけど、傍に居たいと思う気持ちは嘘じゃない。

 私が緊張したまま、視線を上げるとアルベールの視線に突き刺さる気がした。透き通るように綺麗な青が私を見つめている。そして、どうしようもないくらいに高まった私の緊張を解きほぐすかのように穏やかに微笑んだのだった。
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