君をひたすら傷つけて
「でも、緊張してるの」

 そう言った私の言葉にアルベールはニッコリと笑った。

「大丈夫。きっと雅の数倍は俺の方が緊張してる。雅を前にすると自分が小学生の子どもに戻ったように何をしていいか分らなくなる」

「小学生?」

「そう。何の駆け引きもなくただ好きと言いたいだけ」

「緊張してるの?」

 至近距離で見る端正な横顔も明かりの落とされた廊下では足元灯の光りで影を作るだけ。緊張の欠片も見ることは出来ない。

 アルベール・シュヴァリエはモデルとしては一流。性格もいいし、容姿ににも恵まれている。そんな彼は恋愛経験も豊富だろうし女の人が放ってはおかないだろう。それなのに緊張しているらしい。

「雅を抱きしめたら壊れそうで怖いくらいだよ。大事にしたい」

 アルベールの言葉は真摯で心の奥底まで静かに染み込んでくる。義哉以外で私の心を揺り動かしたのはアルベールが初めてだった。自分の中で様々な感情が入り混じり、自分ではどうしていいのかわからない。

「壊れないわよ」

 好きなのに不安で、好きなのに怖くて…。私は何をどうしていいのかわからないまま強がっていた。

 
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