君をひたすら傷つけて
アルベールの寝室は飾り気のない殺風景な部屋だった。モスグリーンの壁紙が貼られた部屋はダウンライトの淡い光だけが照らしている。窓には厚めのカーテンが誂えてるので月の光も見えない。チェストと本棚とベッドだけの部屋でリビングキッチンなどの華やかさに比べたら全く違う。ここがアルベールの空間だった。

「電気を消すね」

 淡いダウンライトが消え、次第に暗闇に目が慣れるまでは何も見えなかった。身体を抱きしめる温もりと耳元で感じる吐息、私よりも激しく打ち鳴らす鼓動がフッと身体の力が抜けた気がする。アルベールの部屋に来ると決めた時から私は覚悟してきた。

 義哉を忘れたとかではなく深い愛は心の奥底に沈め、一歩踏み出してみようと思った。いとしさに鍵を掛けようと思ったのは嘘じゃない。

 アルベールの事は好き。きっと、私にとっては二度目の恋で最後の恋になると思う。最初から終わりが決まっていた恋ではなく、これからも永遠に続いて欲しいと思う。

 静かに私の身体はベッドに下され、サラリとしたシーツの感触にまた身体が強張る。すると次第に暗さに目が慣れてきた。一番に見えたのはアルベールの綺麗な顔の輪郭だった。

 アルベールは私の傍らに自分の身体を横たえると、上体だけを少しだけ反らして、私の頭を優しく撫で、零れる髪をアルベールは一房掬うと唇を落とした。

「雅。愛しているよ」

 そう言うとアルベールは魅惑的な微笑みを浮かべた。
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