君をひたすら傷つけて
 暫くしてそんな声が聞こえた。でも、私はそのまま目を閉じたまま寝たふりをすることにした。アルベールもそのまま寝るのかと思ったのにベッドから抜け出し、ベッドサイドに置いてあったバスローブを羽織ると寝室の窓辺に歩いていき窓辺に座り、月の光を浴びていた。


 薄青く仄かな光に包まれるアルベールは一枚の絵のように綺麗だった。

 眠れないのだろうか?

 寄りかかるように窓辺に腰掛け、左手で髪をかき上げると月の光がゆっくりと映し出す。アルベールの表情は…見たこともないくらいに苦しそうだった。綺麗な顔に刻まれた苦しげな表情はアルベールの心を映している。さっきまでの熱っぽく、それでいて真摯なアルベールはそこにはいなくて、苦しさに包まれた愛する人の姿だった。

 私はベッドから身体を起こすとアルベールはいつもの優しい表情を浮かべ私の居るベッドの方にやってくる。起き上がってずり落ちそうなシーツを胸まで引き上げた私をそっと抱きよせた。

「どうした?眠れないのか?喉でも乾いたなら水でも持ってくるよ」

「もっと傍にいて」

 アルベールはそっと私の身体を抱き寄せた。さっきの苦しそうな表情が嘘のように穏やかで優しい微笑みが私に降り注ぐ。その表情を見ながら安心する私がいた。アルベールにはいつも笑っていて欲しい。

「雅は甘えん坊だな。いや、甘えているのは俺かもしれない。俺は雅に甘えてる」

「甘えてない。いつも優しいし。もっとアルベールも我が儘を言って欲しい」
< 488 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop