君をひたすら傷つけて

日本帰国

シャルル・ド・ゴール空港は今日も雑踏の中にあった。主要都市へ何便もの飛行機が飛ぶこの空港は時間帯もあってか、人が多い。前に来た時はここにリズが迎えに来てくれた。それから私の人生は大きく舵を切った。そして、今は横に私の好きな人が居る。

「チケット貸して。手続きしてくるから」
「いいよ。自分でするから」

 アルベールが私を連れてきたのは一般の人が入ることの出来ないラウンジで、その座り心地の良すぎる豪華なソファに私は借りてきた猫のように座っている。周りを見回すと自分が場違いだと思わずには居られなかった。
 
 普通の出発窓口でいいのに、そこでは目立つからとここに連れて来られた。そして、チケットはアルベールの手からラウンジの係の女性に渡された。有名なモデルであるアルベールはこの雑踏の中でも目立つから、普通の見送りなんか出来ないだろうと思っていたけどずっと傍に居るつもりみたいだった。

『ギリギリまで一緒にいたいんだ』
 
 そんなことを言われると私は頷くしかなくて、アルベールは綺麗な微笑みを零しながら、優雅に歩いていく。そして戻ってきた時、手にはシャンパングラスが持たれていた。空港でシャンパンという発想はなかったけど断るのもどうかと思ったので、差し出されたグラスに手を伸ばした。

「キャンセルしたいよ。そしたら、日本に行けないのに」
「え?」
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