君をひたすら傷つけて
連なる細かな泡の流れが淡い琥珀色の液体の中で踊る。そんな泡の流れを見ていると、横にふわっと花の香りがする。アルベールの使っているボディシャンプーの香りで私からも同じ香りがするはずだった。そう思うと、急に顔が熱くなる。それを誤魔化すようにシャンパングラスに口を付けると、その軽やかな口当たりの後に芳醇な香りが鼻腔を抜けた。

 そっと、横を向くと、私を甘く見つめるアルベールの姿があった。

「仕事頑張って。でも、出来るだけ早く帰ってきて欲しい」
「頑張って早く帰って来れるようにするから」

「帰ってきたら一緒に住もうか?」
「え?それって???」

「言葉の通りだよ。雅の顔を朝起きて一番に見たいだけ。日本にいる間に考えていて欲しい。ずっと前から考えていた。俺は雅と結婚したい」

 いきなりのプロポーズに私は吃驚してしまった。好きだし、愛しているけど結婚は全く考えたことがなかった。

「答えは急がない。雅がフランスに帰ってきてからゆっくり考えて欲しい」
「うん」

 そんな話をしていると日本への飛行機の搭乗が始まったとアナウンスが流れた。

 アルベールと一緒にいる時間は時計が早送りされているように感じる。搭乗口に来た私の手をきゅっと握ったアルベールは私の瞳を捉えるように真摯な瞳を私に向けた。もう行かないといけないことは分かっているのに、私は自分からアルベールの身体に抱きついていた。

「行ってきます」
「ああ。気をつけて」
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