君をひたすら傷つけて
もう一度抱きしめて貰ってから搭乗口を潜り振り向くと私を見つめるアルベールの姿があった。少し手を上げて軽く振るアルベールの姿を見て、目蓋の裏にアルベールの姿を焼き付けた。今度会える時まで私はアルベールの姿を忘れない。

 早ければ半月でまた会える。そう自分に言い聞かせて、消えていくアルベールの姿を最後までずっと見ていた。そして、前を向いて私は歩き出したのだった。

 飛行機に乗り込み、自分の手に持っているチケットをキャビンアテンダントに見せると、自分が思っていた場所とは違う場所に案内された。そして、案内されて座った場所は窓際のそれもゆったりとしたシートで明らかに私が取った席とは違っていた。

 飛行機に乗った最初は気付かなかったけど、私のパスポートに挟まれた飛行機のチケットはいつの間にか変わっていて普通のエコノミーの席のはずがビジネスクラスになっている。昨日、確認した時はエコノミーだった。

 こんなことをするのはアルベールしかいない。飛行機の中に入ってしまっては携帯の電源を入れることが出来ない。

『アルベール。ありがとう。行ってきます』

 私は心の中でそう呟くと窓からの外の風景を見つめた。しばらくはフランスの空ともお別れだった。

 時間が来たと同時に飛行機が振動し始める。離陸準備に入ったようだった。格段に座り心地のいいシートに身体を預けて、外を見ていると急に眠気が襲ってくる。昨日は殆ど寝てなくて、飛行機の離陸の時の振動が私を緩やかに眠りに誘う。さっき飲んだシャンパンも睡魔に一花添えてくれる。飛行機は順調に日本に向かって飛んでいるようだった。

 飛行機の中で私は夢を見た。
 
 微笑む義哉の夢だった。
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