君をひたすら傷つけて
フランスから日本へのフライト時間は十二時間もあるが、前日がほぼ徹夜の私はぐっすりと寝ていた。身体には気を利かせたキャビンアテンダンドがブラケットが掛けてくれていた。テーブルには食事も置いてあって、飛行機の乗ってすぐに寝た私は食事もしないままだったので目が覚めてから、テーブルに置かれている食事が有難かった。食事を終らせて、バッグの中からスケジュール帳を取り出すとこれからの行動を確認することにした。

 リズの友達であるエマと会うのは二日後の予定で、それまでに私がしないといけないのはリズが済むマンションを探すこと。携帯電話の契約をすること。実家の親に連絡をすること。そして、義哉のお墓にお参りに行くこと。

 そんなことを考えていると飛行機は次第に高度を下げ、見慣れた光景が窓の外に映る。しばらくしてスムーズに着陸すると少しだけホッとした。出国出口から出ると溢れる日本語に自分が日本に帰ってきたのだと実感させた。

「帰ってきたのね」

 日本にいる期間は長くても半年。それまで少しの時間を見つけては会いたい人も行きたい場所もある。久しぶりに降り立った日本は懐かしかった。空港に溢れるのは日本語の渦や雑踏も日本とフランスではこんなに違うのかと思う。

 ずっとこの言葉に触れて生きてきたのに何年かのうちにその雑踏に懐かしさを覚えるようになっていた。フランス語の響きが私の中でスタンダードになっているのだとフランスを離れて初めて知る。

 空港を小さなキャリーケースを下げて歩いていくと懐かしい光景が私の目の前に広がっている。たった一年のつもりでの語学留学それなのに実際に日本に帰ってきたのは四年も経っている。

 私は二十四歳になっていた。
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