君をひたすら傷つけて
自分で頑張ろうと思って日本に帰ってきたし、お兄ちゃんに頼ろうという気持ちは微塵もない。マンションに落ち着いたら連絡はするつもりだったけど空港まで迎えに来てくれるとは思わなかった。でも、名前を呼ばれ、お兄ちゃんの顔を見た瞬間、驚いたと同時にホッとしたのも事実だった。

 五年経っているとは思えないくらいに私はお兄ちゃんの横で当たり前のようにいる。あの時は義哉を失った痛みをお互いに抱えていた。でも、今はお兄ちゃんも仕事で頑張っていて、私も自分の仕事を持ち、お互いに別の道を歩いている。

 私が日本に居るのは半月くらいの時間なのに、お兄ちゃんの生活を乱すつもりはなかった。

 私はスーツケースからパソコンを取り出すと接続し、リズに無事に到着したことを連絡しようと思った。そして、業務的なリズへのメールを打ってから、アルベールにもメールを打った。

『こんにちは。こちらでは夜だけど、フランスではお昼を過ぎた頃かしら?先ほど、マンションに着きました。広く綺麗な部屋なので快適に過ごせそうです。明日は荷物を受け取ってから、明後日の仕事に備えます。また連絡します』

 リズはディーのコレクションの打ち合わせの途中だと思う。アルベールは有名な雑誌の表紙を飾る撮影に入っているはず。

 私は私の仕事をする。
 
 そんなことを思い、窓辺に立つと、窓の外にはたくさんの光が見える。フランスとは全く違う風景を見ながら日本に帰ってきたのだと思った。
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