君をひたすら傷つけて
私はマンションに戻ってくるとポストの中にレターパックが入っていた。前の住人のものだったらどうしようかと思ってみるとそれは私宛の物で、差出人はお兄ちゃんからだった。

 自分の部屋に戻り、私はレターパックをあけると中には小さな箱が一つ。掌サイズのその箱の表面には携帯電話の写真がある。開けてみると、そこにはその箱の写真と同じ携帯電話が入っていた。少し角が擦れているけど、十分に綺麗なものだった。

 新しいものではないけど、その携帯電話を手に取り、そっと電源ボタンを押すと画面に光が浮かぶ。画面に映る表示でこの携帯は電波を綺麗に受けていて、そのまま使用できるものだとわかった。そして、新着メールが届いていた。

『少しや休めたか?いきなり携帯電話を送って来られて驚かせてないといいが…。雅と連絡を取りたい時にとれないと不便なので、日本にいる間だけでいいから使ってほしい』

 携帯電話の電話帳を見ると、そこにあるのはお兄ちゃんの電話番号とメールアドレスだけ。本当にそれ以外は全く空っぽの携帯電話だった。

『ポストに入っている携帯電話を受け取りました。ありがとうございます。でも、通話料および、携帯使用料を私が払わして貰ってもいいでしょうか?』

 すぐに返ってきたお兄ちゃんのメールを見て、私の顔が緩んだ。お兄ちゃんは私の気持ちをわかってくれていた。

『雅の好きにしていい』

 便利さに慣れている分、公衆電話を使うことが、いや、探すことが大変になっていた。
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