君をひたすら傷つけて
エマさんは私が使っているパソコンの横に淡いピンクのプラスチックの箱をコトンと置いた。私の名前が書かれた名刺だった。

『EMA.J Co.,Ltd スタイリスト 藤堂雅』

 たった半月なのに名刺までとは思ったけどエマさんの仕事について回るなら、名刺が必要かもしれない。使い切らないうちにフランスに帰ることになるとは思うけど、それでもこんな風に迎えてくれたことは嬉しかった。

「エマ。コーヒーだけでは寂しいからケーキも買ってきたわよ」

 そういって入ってきたのは懐かしい顔だった。

「雅。彼女がもう一人のスタッフのまりえよ。フランスで一緒に住んでいたのだから紹介はいらないわね」

 まさかもう一人のスタッフがまりえだとは思わなかった。まりえは大学を卒業して、商社に勤めていたはず。だから、リズはまりえも通訳は頼むとは言っていたけど、仕事の合間に手伝ってくれるのかもしれないとくらいにしか思ってなかった。

 でも、エマはもう一人のスタッフという。

「久しぶりね。雅。会いたかったわ」

 まりえは買ってきたコーヒーとケーキをテーブルの上に置くとふわっと私を抱き寄せた。まりえの優しい香りがする。まさかここで会えると思ってなかったので、驚いたものの、まりえに会えた喜びが身体を包んでいった。

「私も会いたかった。でも、商社に勤めていたのに何で?」

 まりえは大学を卒業後、有名な商社に就職したはず、それなのに、さっきエマさんは私にもう一人のスタッフと言う。

「商社は辞めたわ。実は私、結婚するの。仕事は続けるつもりだったけどリズに頼まれてここでの仕事を手伝っていたら商社の仕事よりも楽しくて、ここで働くことにしたの」
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