君をひたすら傷つけて
毎日は楽しいけど肉体的に過酷で軌道に乗せるまでは仕方ないし、日本にリズが来るまでだと言い聞かせた。

 朝起きてシャワーを浴びて事務所に行くとまりえは既に出勤していて、私とエマの簡単な朝食を用意してくれる。それを食べたら戦闘態勢に入るのがここ数日のことだった。食事をしながらコーヒーを飲みながらの会議を行い、私とエマはそれが終わると挨拶を兼ねた営業に向かう。

 今でも忙しいが、既存先だけでなく新たな取引先を探すのも大事な仕事だった。エマのスタイリストとしての能力は素晴らしい。でも、既存先だけでは先々に枯渇する。資料を持ち歩き、今までの成果を纏めた資料を配る。

 エマの不得手な言葉やニュアンスを足しながら通訳をするのが私の仕事だった。エマは毎日ありとあらゆる場所に行く。靴の底がすり減るほどとテレビで営業の俳優が言っていた意味が少しは分かる気がした。毎日、足が痛くなっていた。

 それは金曜日だった。

 エマと向かった営業先は大手プロダクションでお兄ちゃんが勤める場所だった。エマのリストに名前があったのは知っていたけど、こんな形でお兄ちゃんの職場に来ることになるとは思わなかった。

 お兄ちゃんの働くプロダクションは高層ビル群の中にあり、私は一歩踏み入れて、その事務所の規模を知った。エマは日本で有名なスタイリストの紹介でこの事務所に来たのだけど、あまりの規模の大きさにフッと息を吐いている。伝手がなければ門前払いを喰らうだろう。

 アメリカの規模には及びもしないかもしれないけど、ここは日本で一番大きな芸能プロダクションで、緊張が私を包んでいた。

「このプロダクションと上手く繋がりが持てればかなり仕事が楽になるから」

「そうなの?」
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