君をひたすら傷つけて

心揺れる夜

事務所に戻るとエマはニッコリと笑った。通訳なしで大丈夫かと思ったのは杞憂だったようで満面の笑みが思惑通りの取引が出来るようになったのを物語っていた。

「お帰りなさい。マンションに帰るかと思った」
「エマのことが気になったし」

「大丈夫だったわ」

 エマはパソコンの置いてあるデスクからそっと一瞬だけ視線だけを私に流し、またパソコンの画面に視線を戻す。

「で、篠崎海のお願いって何だったの?」

「高取さんのプレゼント選び。二週間後に誕生日なんだって」

「なるほど。雅の顔を見ているといいものが見つかったのね」

「あれなら絶対に気に入ってくれると思う」

「それがこの仕事で一番大事。洋服も小物もたくさんあるけど、その中でそれを着る人の身になって考えるのが大事なの。もちろんクライアントの持ってきた物の中で選ばないといけないことが多いけど、その中でも最上級のものを提供するのが私たちスタイリストの仕事だから」

 エマとリズは同じ考え方で言う事まで似ている。エマと出会って時間はそんなに経ってないのに彼女のことをずっと昔から知っていたような気がするのはエマを通してリズを感じるからかもしれない。

「わかったわ」

 私がそう言うとエマはニッコリと笑ってくれた。そして見計らったようにまりえがカフェオレを淹れてくれた。私の前にマグカップを置いて、そして、その横にももう一つのエマの分のマグカップを置いてくれた。

「エマも少し休憩して。仕事しすぎよ。身体を壊したら何にもならないから」
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