君をひたすら傷つけて
エマは自分の事務所を立ち上げるということもあって、かなり無理をしていると思う。私とまりえは必ず自分の家に帰るようにしているけど、エマはどう見ても徹夜をしたと思われる日が多々ある。自分のマンションに帰ったと思っても、仕事を持ち帰っているみたいだった。

「わかった。なんかまりえの声を聞くと従いたくなるのは何故かしら」

 そう言うとエマはパソコンのデータを保存してからソファに腰かけた。すると、見計らったかのようにまりえがエマにマグカップを渡した。

「今日は必ず全員家に帰ること。エマも例外じゃないから。大体、仕事も大事な時期というのは分かるけど、エマや雅が倒れたらフォローできる人材が居ないことを考えないと。リズが来るのはまだ先よね。今はパワー全開で仕事をする時期ではないから」

「つい、目の前にあると」

 そんな言い訳のような言葉をまりえはニッコリと笑って打ち消した。

「それなら私は手を引くわ。健康に気を使わない上司には付き合えないから」

「わかった。きちんと休むから」

「それならいいのよ」

 こういう時のまりえは怖い。可愛いのに怖いのは迫力が満点で私も自己管理は気を付けようと何度も思う。リズがまりえをこの事務所に置いた意味は単なる事務員ではないと思った。

 私は借りているウィークリーマンションの部屋に帰りついたのはいつもよりも一時間は早かった。シャワーを浴びると何となく冷蔵庫のビールに手を伸ばした。すると、見計らったようにお兄ちゃんからのメールが届いた。
< 546 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop