君をひたすら傷つけて
『遅い時間に申し訳ない。土曜日には何か用事があるか?もし、何もなかったら一緒に出掛けないか?もし、時間があるなら、明日の朝でいいので連絡をして欲しい』

 私はエマとまりえにメールをした。
 用事が出来たので土曜日は休ませて貰いたいと……。

 エマもまりえも何も聞かずに『オッケー』とだけ返してきた。
 
 了承を得ることが出来たからお兄ちゃんにメールを返そうと思ったけど私は直接電話することにした。携帯は呼出音を何回か鳴らしてから私の耳に届いたのはお兄ちゃんの静かな落ち着いた声だった。

『雅?』
『うん。お兄ちゃん。今いい?』

『マンションに帰ってきたところだから大丈夫だよ』
『明日は大丈夫』

 私がそれだけいうと、お兄ちゃんがフッと笑ったような音がした。少し吐き出された空気の音を私の耳に届かせた。

『そうか。じゃ、明日は昼から出掛けて、夜は前に一緒行った和食を食べに行こう』

『仕事忙しいと聞いていたから』

『大丈夫だよ。ちょうど仕事も落ち着いてきていたから』

『義哉のところにも行きたいけどいい?』

 私はお兄ちゃんの優しい嘘を聞きながら、篠崎さんに感謝していた。もしも、篠崎さんから聞いてなかったら、私は仕事をするために事務所で時間を過ごしただろうし、お兄ちゃんがどんな思いで休みを取ってくれたのかも知らなかった。

 優しい嘘に気付かなかったかもしれない。

『もちろんだよ。車で迎えに行くよ。何時がいい?』
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