君をひたすら傷つけて
「じゃあな。また連絡するから」

 また今度いつでも会えるような言葉をお兄ちゃんは言う。最後と言いながら私の心を掻き毟った。お兄ちゃんのいう事は何も間違ってない。連絡するというのは仕事の件であり、個人的ではない。アルベールと新しい道を歩こうとしている私が他の男の人の手を取ってはいけない…それはお兄ちゃんであっても…。

本当の妹ならよかった。卒業なんか出来そうもなかった。

「じゃあね」

 精一杯の強がりで私はお兄ちゃんの車を降りた。ふわっと頬を撫でる風が涙を誘う。キュッと唇を嚙みしめることで私は涙を堪えることが出来た。

「またな」

「うん。おやすみ」

「おやすみ」

 振り向くとお兄ちゃんの瞳は私を見つめていて、その真摯な光に魅せられた。何か言いたげな瞳は何にも語らず、そっと伏せられた。そして、もう一度私を見て、綺麗な微笑みを浮かべた。なんて優しい微笑みなんだろう。

 そう思いながら私も微笑んだ。

 お兄ちゃんの車を見送ってから自分の部屋に入ると、我慢していた涙が零れてきた。『卒業』という言葉が私の中に繰り返される。いつまでも甘えているわけにはいかないのに私は涙を堪えることが出来なかった。ポロポロと零れる涙は何なのだろうか?止まる気配はなく流れ続ける。

 心に大きな穴が空いていた。
< 563 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop