君をひたすら傷つけて

人生の転機

そこに居たは私の大事な人。でも、私の想像を遥かに超えた人で豪奢な金髪は肩の辺りで綺麗に巻かれ、完璧な化粧を施した女神のようでもあった。カシュクールのワンピースからからは零れそうなくらいのふくよかな胸が目の前にあった。

「リズ…」

「雅。下で高取さんからこれを預かっ……どーしたの。何があったの?」

 リズは私の顔を見るなり、手に持っていた袋も落し、玄関のドアには持ってきたと思われるスーツケースは挟まれたまま。私はギューとリズの温もりに包まれていた。肌越しの聞こえる声は優しさに包まれた。

「何もない。大丈夫」

 そう言ってリズの腕から逃げようとしたけど、それも無理だった。

「我慢ばかり。お姉ちゃんに言ってごらん」

 そんなリズの言葉に収まり掛けた涙も流れ出したのだった。

 私は今日の出来事を順に話した。お兄ちゃんとドライブに出掛け、最初は楽しかったけど、途中でもうこんな風には会えないと言われたこと。アルベールと幸せを望んでいると言われたこと。

 リズは荷物も玄関に置いたままリビングで私の話を聞いている。お兄ちゃんから言われた言葉に頷きながらも、少し難しい顔をした。でも、私が全てを離し終わるまで何も言わなかった。リズは小さな溜め息を零すと少し言葉を探すような間をおいてからゆっくりと話し出したのだった。
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