君をひたすら傷つけて
「突然、お邪魔して申し訳ありませんでした」

 アドリエンヌさんは自分がしていることに気付いたのか、ハッというような顔をして私に謝った。そして、少しだけ泣きそうな表情を浮かべた。

「お願いします。あなたの方から別れて貰えませんか?あなたの方から言ってくれるとアルベールも諦めてくれると思います」

「それは出来ません。私もアルベールのことを愛してます。ずっと傍に居たいと思っています」

「わかりました。それでは失礼します」

 アドリエンヌさんが帰って、私はソファに座りこんでいた。彼女の瞳は自分の真っ直ぐな心を表しているのか躊躇いもなくまっすぐに見つめていた。その真っ直ぐさが苦しかった。アルベールを思う気持ちは偽りのないものだった。本当に物心ついた時からアルベールに恋をしてきたのだろう。

 私はアルベールを愛している。でも、アドリエンヌさんの一途さに、義哉を思っていた私を思い出していた。

 私が義哉を愛したように、アドリエンヌさんもアルベールに恋をしている。それは間違いないだろう。真剣な表情は既に大人の女性のものだった。

 私は…どうしたらいいのだろう。アドリエンヌさんの言うとおりにアルベールがモデルを辞めて企業に戻るとなると本当に必要なのは愛ではなく血筋なのだろうか?

 アルベールが私のアパルトマンに来たのは夜も更けてからだった。今日も仕事が終わってから私をそっと抱きしめるだけの為にきてくれた。大きな胸に抱き寄せられながら私は鼓動を聞く。この温もりを離したくなかった。
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