君をひたすら傷つけて
「高取のいう通り、聖の撮る写真は好きだし、聖相手だと気負わずに済む。スタイリストも見知った人だし、楽しい撮影になるといいですね。でも、明日は明日なので、今日は折角ですので美味しいお料理を楽しみましょう」

 篠崎さんはニッコリと笑いながら、ワインを持った手を軽く上げると、それを見た聖さんは微かに口の端を上げ、リズは嫣然と微笑む。私は緊張してワイングラスを持ち上げると、目の前のお兄ちゃんはゆっくりと頷いた。

 五人で乾杯してから始まった食事会は周りの雰囲気は人を寄せ付けないくらいに敷居の高いものだけど、このテーブルだけは少し違う。久しぶりに会ったのが嬉しいのか、聖さんは篠崎さんに楽しそうの話し掛け、リズとも嬉しそうに話している。

 そして、私は少しだけ緊張が解れてきた。

 リズが私が霞むからといつも以上にお洒落にしてくれたのが分かる。この中にいると自分が浮いてしまうのが分かる。セレブの中にいる庶民の女の子が私だった。

「雅。この鴨は味付けも日本人好みだと思うから食べてみたら?前にこの店のシェフの弟子の店に一緒に行ったことあるよ。覚えている?」

 緊張の中、白いお皿に絵画のように彩られた鴨を食べると、記憶の片隅に残ってる味覚が戻ってきた気がした。さっきまで緊張してワインの味も少しぼやけていた。

「本当。大学に入ってすぐの頃に一緒に行った店のに似てる」

「あの店のシェフが作るのが、この店の味に似ているんだよ」
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