君をひたすら傷つけて
 ホテルの部屋で朝を迎え、疲れが押し寄せてきて、ベッドの中で一日を過ごし、そのまま、夜を迎え……。私はフランスに戻ってきて三日目になっていた。私がベッドの中で過ごしている間、リズは私の傍から離れることはなかった。フランスに戻ってきての仕事も、イタリアでの仕事もあるだろうに、それでも私の傍から離れず、一日中、ホテルの部屋でゆったりと過ごしていた。雑誌の仕事もリズが他の人を手配してくれたので、信用を落とさずに済んだ。

 テレビもつけず、パソコンも開かず…。全ての情報から遮断された空間は自分のことを見つめなおすいい時間になったと思う。

「雅。何か食べる?ルームサービスでもいいし、気分が良かったらカフェかレストランにでも行く?」

「水だけでいい」

「せめてオレンジジュースくらいは飲まないと…。ずっと何も食べてないでしょ。ダイエットをするなら、健康的にしなさい」

「ねえ、リズ……。私、スタイリストとしての仕事が好きなの。アルベールも好きなの。どちらかを選ばないといけないなんてね。それにいきなり結婚とか言われても」

 私が自嘲的に言葉を零すとリズは私が寝転んでいるベッドの端に座ると、ふわっと抱き寄せた。

「人生は時々選択を迫るのかもしれないけど、それを決めるのは自分なのよね」

「リズもそんな時あった?」

「ニューヨークでトップモデルと言われていた時、自分の中の女の気持ちが抑えられずにモデルの仕事をとるか、自分の心を取るかで迷ったわ。だって、女になるということは今までの自分のキャリアを捨て、モデルの仕事を捨て、家族も捨てないといけなかった。でも、私は私で居たかった」

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