君をひたすら傷つけて
 リズと一緒に私はアパルトマンに戻り、普段通りの生活を取り戻しつつあった。

 でも、アルベールと私が付き合っていたのは周知の事実でアルベールがどんなに手を尽くしてくれていても、トップモデルとスタイリストの恋愛は興味津々というところだった。

 私はリズのアシスタントをするのにも限界を感じていた。リズの手前、私にアルベールのことを誰も聞いてこないにしても、好奇の視線は消せなかった。アルベールがアドリエンヌさんとの婚約が白紙になったことを発表したこともその一端を担っていた。

 アドリエンヌさんとの婚約の破棄。でも、モデルは引退して、すでにパリを離れている。周りの人の興味を引くのはわからないでもないが説明する必要もない。

 最後の優しさは私への溢れんばかりの愛だと私が分かっていればそれでいい。でも、私の仕事は徐々に支障をきたし始めていた。

「雅。少しの間、エマの仕事を手伝ってくれない?どうも日本での仕事が順調に回りだして、スタイリストが足りないの」

「私もこのままでは仕事にならないから、少しここを離れたいって思ってた。日本に帰るのもいいかもしれないけど、こんな形で日本に帰るとは思わなかった」

「ずっと、日本に帰るわけじゃないわ。少し落ち着いてから、私の片腕としてコレクションにも参加してもらいたいし。それに、日本に帰っても、エマにこき使われるのは目に見えているから、こっちにいる方がいいって思うかもよ」

「日本に帰る。そして、もう一度自分のことを考えてみる」
< 656 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop