君をひたすら傷つけて
 アルベールは私の言葉にホッとしたような表情を浮かべた。私はその優しさに瞼が熱くなり、頬を涙が伝うのを感じた。泣いたらいけないのに涙が止まらない。

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 こんなに優しくしてくれたのに、愛を返せなくて。こんなにも優しく大事にしてくれたのに、こんなにも愛してくれたのに……。最後の最後までありがとう。泣く権利なんて私にはないのに…。それでもあなたは笑ってくれる。

 アルベールは私の涙をハンカチで拭うと私の手にハンカチを握らせた。そして、今までよりももっと優しく微笑んだ。

「いままで楽しかった。本当にありがとう。雅」

 そういうとアルベールはテーブルの上にある伝票をもって席を立った。そして、振り返りもせずにカフェから出ていった。振り向かない優しさを感じ私はそして握りしめたハンカチを抱きしめ、頬を伝う涙がテーブルの上に落ちるのを見ていた。

 部屋に戻るとリズはもう帰ってきていて、泣きながら帰ってきた私をゆっくりと抱き寄せた。

「アルベールが自分の我儘で、この前の話はなかったことにして欲しいって。私につらい言葉を言わせなかった。楽しかった。ありがとうって」

「そう」

「嫌いにならないでって」

「そう」

「嫌いになんてなれないよ」

「そうね。嫌いになんてなれないね」

 私がリズの胸で涙を流し、枯れるのではないかと思うくらい泣いた一週間後、アルベールはモデルを引退した。街中に溢れていたアルベールの綺麗な顔は見ることも無くなった。
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