君をひたすら傷つけて
 まりえの準備してくれたウィークリーマンションはエマの事務所からはかなり遠かった。本当はもう少し近くを探したかったというけど、今回は帰国を決めてからの間がなかったので仕方なかった。

 帰国の手続きをして、エマの事務所と契約を交わす。新しい番号の携帯にした私のアドレス帳が真っ白になっていた。しばらくは誰とも連絡を取りたくなかったので、無事に帰国できたことを実家に連絡するついでに番号を教えたが、それ以外は最低限の必要な連絡先だけを登録した。手帳に書いてあるお兄ちゃんの連絡先を登録しようと思ってやめたのは、登録をしたら甘えてしまいそうだったからだった。

 数日の時間を掛けてから、手続きが終わり、私の新しいマンションの部屋も決まった。ワンルームの狭い部屋で、契約を躊躇しそうになる狭さだったけど、駅から近いのと家賃が安かったのが決定の理由だった。

 エマは私の新しい部屋を見て、眉間に皺を寄せ、部屋を見回した。

「これってウォークインクローゼットなの?」

 アメリカで広い空間で生活していて、今も高級マンションに住むエマにとって、私のマンションはクローゼットに見えたみたいだった。何も置いてないのにこんなに狭いからベッドをいれたら、生活スペースは限りなく少ない。座ってテレビを見て、その前に小さなテーブルくらいは置けるかもしれない。

 とりあえず生活は出来ると思う。

「ここで十分よ。まだ、収入も得てないのに贅沢は出来ないから」

「それなりのギャランティは払うけど」

「しばらくは何も考えたくないからこれでいい」
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