君をひたすら傷つけて
「おかえりなさい。疲れたでしょ」

 まりえの声を聞きながら、帰ってきたと思う。まりえはゆっくりと私の身体を抱き寄せてからニッコリと笑った。

「まりえ。ただいま。エマは仕事?」

「うん。仕事よ。順調に仕事が増えていて、毎日エマは飛ぶように動き回っている。まだ、篠崎さんのCMは放映されてないのに、芸能事務所からはいくつもの仕事が舞い込んでいる」

「そうなんだね。でも、それだけエマの仕事が認められたからだね」

「認められたのはいいけど、一人でするにはキャパオーバーだから、早く雅が動けるようになって欲しいとエマは言っていたわ。日本に事務所を開いて、仕事を断ることがどれだけの信用を失うかをエマは分かっているのね」

 まりえは私の分のカフェオレも入れてくれて、私はテーブルに着き、ホッと息を漏らした。

「雅がウイークリーマンションがいいっていうから、いくつか今日から泊まれる物件を見つけたけど、本当に今日からでいいの?」

「うん。色々な手続きもしないといけないから、数日の間にエマの事務所の近くに自分の住むマンションを見つけようと思う。ウィークリーは家具付きの物件だから、私には都合がいいから。これから住むマンションが決まるまでだし。マンションが決まったら、簡単な家具だけ買って生活を始めるわ」

「高取さんに連絡したの?」

「してない」

「そう」

 まりえはそれ以上は聞いてこなかった。その優しさをカフェオレに感じながら、私は穏やかな時間を過ごした。

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