君をひたすら傷つけて

専属スタイリストとしての生活

 お兄ちゃんと会った次の日にエマに篠崎さんのスタイリストの話をすると、いきなり飛びついてきて、私は後ろに転びそうになった。

「よくやったわ。あの事務所の仕事は女のタレント主体だったから、男性の俳優のスタイリストとなると仕事の幅が広がる。これで事務所も安泰よ。まりえと雅のギャラも出せそう」

「え?」

「まりえは私の秘書兼総務兼経理。アシスタント全般。そして、リズに鍛えられた雅は活動部隊よ。一つの仕事も疎かに出来ないから頑張ってね。さ、早々に高取さんにアポを取ってくれる?契約に行かないと」

 私はお兄ちゃんと食事に行った二日後にはお兄ちゃんの勤めている芸能事務所にエマと一緒に挨拶に行くことになった。時間を指定された行った先には社長と篠崎さんとお兄ちゃんが待っていてくれて、スムーズに破格での専属スタイリスト契約が提示された。

 事務所の社長としても篠崎さんの将来に強く期待してあって、最大限の投資は惜しむつもりはないようだった。

 フランス帰り、パリコレ経験あり。これが私が選ばれた理由の一つだった。でも、いくらフランス帰りのスタイリストを篠崎さんが望んだとしても、お兄ちゃんと昔からの知り合いでなければ、この話はなかったと思う。

「これからよろしくお願いします」

 エマと固く握手を交わしてから、芸能事務所の社長が契約を終わらせて応接室から出ていった。そんな後姿を見ながら篠崎さんはニッコリと微笑んだ。屈託のない微笑みは好意だけが込められている気がした。
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